オリンピックだそうで。
地球村の運動会を若い人たちが楽しむのは大いにけっこうだが、いい
トシをした大人が、やれ経済効果がどうの株がどうのと、カネの話にば
かり夢中になっているのは、野暮(やぼ)だし、みっともない。
ま、儲けるのは悪いことじゃないが、みっともないのは困ったもんだ。
日本のど真ん中の日本橋。前の東京オリンピックの時に、あの日本橋の上
に高速道路をかけてしまったのは、いくら突貫工事だったからって、みっ
ともない。こんどのオリンピックの儲けで、いまの高速道路は地下に移し、
日本橋に元の空気を吸わしてやりたいもんだ。
それと、オリンピックに便乗するCMが、これからどっと出てくるんだ
ろうね。便乗はCMのお家芸だから、悪くはない。が、問題は便乗の才気
だね。オリンピックにおんぶにだっこの、みっともない便乗は、野暮だし、
オリンピック精神にも反する(かな)。
それで思い出したが、作家の山口瞳さんがサントリーの宣伝部にいた年、
ちょうど前の東京オリンピックがあった。観光客であふれる東京。そんな
とき、山口さんはトリスウイスキーのこんな新聞広告を書いている。
「みんな、山を見る/オレ、川を見る/みんな、東京に集る/オレ、旅
に出る/テレビで観る/トリス飲む」
そのコピーに、旅先の宿でトリスを飲みながらテレビでオリンピック中継
を見ているアンクルトリスの絵。そこにあるのは、オリンピックブームに背
は向けてもオリンピックはちゃんと見てるぜという男の姿だ。粋だねえ。
便乗をするなら、このくらいカッコよく乗らないと、CMのメダルはとれ
ないんじゃないの?
(天野祐吉:コラムニスト)
朝日新聞デジタル 2013.9.11 より