2008.7.31 第13回日本緩和医療学会に参加して

 2008年7月4日と5日、静岡市で第13回日本緩和医療学会総会が開催されました。
「広げる・深める・つなげる ~技と心~」のテーマで、5000名を越えるの方々の参加がありました。

昨年に引き続き、当院からは、安医師がポスター発表をし、看護師の芳賀と大胡が参加しました。

安の報告

「診療情報提供書と入院相談からみえてきたもの」という演題でポスター発表をしてきました。入院相談という場で患者さんやご家族がどんなことを聞いてほしいのか、話したいのか、相談したいのかということに思いを巡らせながら発表の準備をしていました。当日ポスター会場で「ホスピス緩和ケア病棟への入院を検討する時期の家族のつらさと望ましいケア」という95施設667名の遺族へのアンケート結果を集計した演題がありました。そちらは大きな研究で、私たちのものは、日頃の考えをまとめただけの小さな発表でしたが、共通する内容があって、日本中の緩和ケアに関わる人たちも日頃同じようなことを思って働いているんだなあと、心強く感じました。


















(大胡からの報告〉

今回学会で、特に印象に残った講演や学んだことを参加したプログラムごとにまとめて報告します。

■ もうひとつのリスクマネジメントとしてのストレスマネジメント

石垣靖子(北海道医療大学大学院 看護福祉学研究科)

 このシンポジウムに参加したのは、ケアに関する知識や経験の不足による不安や怖さを抱えながら、今まで看護師として働いていた自分がいたからです。
精神科とはまったく違う分野の花の谷クリニックに就職してからの2ヶ月目。
リーダーとして勤務が組まれるようになった頃は、その不安がとても強く、自分でもどうしてよいかわからず、日々過ごしていました。そんな時あるスタッフがそんな私の思いに耳を傾けてくれたことがありました。私の気持ちに気づいて話を聞いてくれたのかはわかりませんが、自分の気持ちを話したことで少し気持ちが楽になりました。ストレスとうまく付き合う方法がわかれば、もっといきいきと仕事ができるようになるのではないかと考え、このシンポジウムに参加しました。
 シンポジウムの中で、特に心に残った言葉があります。それは、「ケアに携わる1人1人が常にいい状態であること。1人のストレスがチームの中で伝染し、悪循環となり、組織にダメージを与える。患者さんにその人らしさを尊重した看護を行うには、スタッフもその人らしさを尊重されなければならない。」持続的なストレスや疲労感は、無気力となり、集中力の低下をもたらすそうです。ストレスの因子としては、頻回のナースコールに対応できないこと、緩和ケアの経験不足による自尊感情の低下、症状コントロールへの対応、倫理ケア、マンパワー不足などがあるそうです。実際私のストレスも、この中に含まれており、自分だけが悩んでいたわけではないことに気づき、少し安心しました。今後、チームメンバーで支えあい、自分自身が少しずつでも成長していけるようなりたいと思いました。

■ 緩和医療における口腔内乾燥・口臭に対する具体的なケア方法

大田洋二郎(静岡県立静岡がんセンター 歯科口腔外科)

 このワークショップでは、動画で実際の口腔ケアを見ながら、説明がありとてもわかりやすかったです。開口のできない人は、頬の粘膜を刺激(マッサージ )することで、唾液の分泌を促し、口腔内の保湿に効ハがあることを学びました。また保湿には、白ゴマごま油が良いと講演していました。歯ブラシに関しては、小さいヘッドのものが、小回りがきき、かまれにくいそうです。静岡がんセンターの中で、スポンジブラシの消費が一番多い病棟が緩和ケア病棟だそうです。それだけ、口腔ケアに重点がおかれているそうです。

■ 症状緩和に役立つリハビリテーションテクニック

吉原広和(埼玉県立がんセンター 整形外科
リハビリテーション室 理学療法)

 がん患者さんの理学療法の目的は、①疼痛や苦痛の緩和 ②ADLの拡大 ③精神的な援助の3つの柱があるそうです。①はまず、楽に休んでもらえるように関わる。②は痛みや筋力低下を補う方法を指導したり、補助具を利用してADLの拡大を図る。③は成功体験を残すことで、精神的な援助を行う。この講演で、1枚のビニール袋を用いて、患者さんを小さな力で動かしていたのには、驚かされた。

■ 遺族調査から見る終末期がん患者の負担感に対する望ましいケア

赤澤輝和他

 患者さんにどのように声をかけたらよいか、どうすれば最期まで心地よく過ごしていただけるのだろうかと日々のケアの中で、何度も考えることがあった。そのなかで、このポスターには、具体的にどのように声をかければ、患者さんの喪失感を最小化し、価値観を尊重し、日常的ケアが行えるのかが示されていたので、その1例を報告します。

・ 「何かして欲しいことがありますか」ではなく「私たちができることはありますか」と声をかける。

・ 「頑張られてますね、頑張られましたね」など励みになる声をかける。

・ 「誰もがみないつかは他人の手をかりることになりますので、お互い様です」

・ 「~してあげる」という言葉をつかわない。

・ 「お手伝いさせていただいてありがとうございました」と声をかける。

・ ポケットベルの呼び出し音を気づかないように小さくする。

■ 看取り時のバイタルサイン測定に対する看護師の気持ちの変化

~緩和ケア病棟に始めて携わる看護師の場合~

木村恵美子他

 今まで働いてきた病院では、ベットサイドに心電図モニターがあった。花の谷には、モニターもなく、VS測定も頻回には行わない。その違いに最初は、戸惑いもあった。どうやって患者さんを捉えればよいのか疑問だった。モニターを中心にして患者さんを捉えていたため、モニターがない不安があった。
私だけそんな思いをしていたのかと思っていたら、このポスターに私と同じような思いをした看護師の声が表現されていて、とても参考になった。その1例を紹介する。

「モニターがないデメリット、不安」

・ 誰にも気づかれずに死なせてしまうのではないか。

・ VSは基本と考えていた。習慣だった。

・ 患者が1人でなくなったら、あの時に訪室しなかったからだと思ってしまう。

・ 観察力が弱い

「頻回なVS測定によるデメリット」

・ 穏やかに眠っていても起こしてしまう。

・ 血圧測定で腕をあげたり、締め付けられるのは苦痛。

・ 血圧測定により、紫斑ができる。

・ 家族は数値を気にして患者をみなくなってしまう。

・ 最期の「ピー」しか見ていなくて、顔を見ていない。

■ 家族の予期悲嘆に対するケアの試み

~「旅立ちに向けて」冊子の作成~

谷岡智子他

 今も私が難しいと感じているケアがある。それは、家族に対するケア。家族が部屋で見守る頃になると、私は患者さんの部屋に入りにくくなる。それは、家族にこれから患者さんがどうなるのかうまく説明できないことが、何度かあったからだ。今回学会に参加して、この冊子と出会い、今後のケアの参考になったので、紹介する。

「旅立ちに向けて」
旅立ちまでの体の変化
これから書いてあることは、一般的なことに過ぎません
最期はどうなるのだろう
聞きたくても聞けないことはあると思います
心配なことが1つでも解決し、大事な方のことが考えられるようにしていきましょう
1人1人の人格が違うように、終着駅までの道のりは、皆ちがいます
どの道のりが正しく最良なものかは誰も決めることができません
みんなで見守りながらすすんでいくだけです

食欲がなくなり、食べる量や飲む量が少なくなります
うとうとする時間が長くなり、眠っていることが多くなります
時間や場所がわからなくなったり、変なことを言ったり、知っている人を取り違えたりすることもあります
このような変化は誰にでも起こりえる自然なことであり、旅立ちへの準備です
血圧が下がるため、手足がだんだんと冷たくなっていきます
血の巡りが悪くなり、皮膚の色が悪くなっていきます
息をするたびにゴロゴロと音がしたり、うめき声がでることがあります
体が弱ってのどの筋肉が緩んでくるためにおこることなのでご本人が苦しいわけではありません。
おしっこの量が減ったり、時に失禁がみられます
体の中の電解質のバランスが崩れるためにピクンとなったり、震えるような動きをすることがあります
呼吸がだんだん弱くなり、波打つように大きくなったり、小さくなったりします
息づかいが次第に小さくなって、いよいよ旅立ちがはじまります

このような中で見守ることしかできないわけではありません

病院の中ですが、大切な方が安心してご自宅にいるような気持ちで過ごすことができるようにしてあげましょう
顔や体をふいてさっぱりさせてあげることもできます
お口の中も軽くふいてあげましょう
唇を湿らせてあげるのもよいでしょう
ひげそりや髪を整えてあげることも喜ばれると思います

お返事はされなくても聞こえています
さびしくないように話しかけてあげましょう
手を握ってあげたり、足をさすってあげると気持ちよさが伝わると思います

いよいよ旅立ちです
死は特別なことではありません
人はこの世に生を受けた瞬間から死へ歩んでいます
ですから歩む道のりが大切なのだと思います

忘れていることはありませんか
大事な人大切な方へ
「さようなら…ありがとう…」を忘れないで
みんなの声で安心して旅立てます

旅立ちへの着替えは看護師がします
大切な方のお気に入りの洋服やその人らしい出で立ちで旅支度を整えたいと思います
お顔を拭いたり、髪を整えたりすることは、ご家族の方もご一緒にできますので、ご希望があればお声をかけてください

■ まとめ

講演やポスターセッションにより、今まで思っていた疑問や不安が少し解決できたことは、私にとって大きな学びになりました。また、自分だけが悩みを抱えて働いていたわけではないことがわかり、気持ちが少し軽くなりました。

大胡 まり

このホームページにポスターを掲載することで、読んで下さる方からのご意見も賜り、私たちの今後のケアにつなげたいと思っています。

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