1997.1.31 患者学のすすめ

…………….. 薬害エイズ問題、福祉の場を利用して起きた贈収賄事件など、昨年はよもやと思う出来事が世間を驚かせ、医療や福祉に対する信頼を失墜させました。
 その中で、いくつかの医療や福祉に関する制度の変革がすすんでいます。それは、私たちにとって、本当に必要で意味があり、納得のできる改善策なのでしょうか。
 現在ある制度のどこに問題があって、どう変えたらいいのか、医療従事者にとってさえもわかりにくく判断のつきにくい構造です。ちょっと堅くて難しい話ですが、私たちの生活に直接関わる問題です。この通信を糸口に、そして皆様の意見をよせて頂き、共に考えていきたいと思っています。 ……………..


■患者学のすすめ
~よりよき医療をうけるために~

-みんなで考えたい医療制度のこと-

以下、私見をまじえながらの解説であることを先にお断りしておきます。

1. 医療保険

大きく分けて、(1) 職場の保険組合等に加盟する社会保険と (2) 主に自営業の人が加盟する国民健康保険の2つあります。さらに、70才以上の人には (3) 老人保健法が適応されます。日本人は全ての人が、保険本人または家族としてこの(1)または(2)のどちらかに加入し、保険本人は月々決まった額を保険組合あるいは市町村に納めています。すべての国民が医療保険に加入している日本の保険制度は、国民皆保険といって、世界に誇ることのできる制度ではないかと思います。ところが保険基金は深刻な財政危機の状態にあることはご存知の通りです。
 医療費の自己負担額が、(1) 社会保険の多くは、本人1割、その家族は3割であり(0割、あるいは2割負担の保険もある)、(2) 国民健康保険の多くは本人もその家族も3割負担(0割、あるいは2割負担のものもある)が現状です。つまりかかった医療費の保険による支払いは、社会保険の場合、本人についてはその9割、家族については7割であり、国民健康保険の場合は、本人家族ともその7割が保険から支払われるということです。
(3) 老人保険は、本人負担は現在ひと月に1020円の定額であり、1020円以上のかかった医療費は社会保険組合や市町村の国民健康保険が均等に負担します。
 ところで日本の保険で認められている医療費は、すべて保険点数といったもので定められており、誰かが異なる医療機関で同じ内容の診療を受けた場合、それが保険で認められている診療であれば同じ保険点数であり、医療機関に保険か支払われる額はまったく同じであるということです。
 老人保険の方が1020円で月に何回もかかり、多くの検査、多くの薬をうけたとしても、70才未満の人がこれと同じ診療を受けた場合とまったく同じ額が保険より医療機関には支払われます。
医療機関には、保険点数に基づいた収入がはいり、保険の支払い基金の方は、自己負担額以外の医療費が増えるほど出費は増えるというわけです。
 社会保険であれ国民健康保険であれ支払い基金の方は、入る保険料より支払う方が多くもう底をついて赤字であるのが現状で、改善のためには、自己負担率を増やすか月々の保険料を上げるかということで論議が進んでいます。
 昨年11月下旬に医療保険審議会が厚生省に提出した改革案に対し、日本医師会は絶対反対を唱え、その後決定された与党案は次のようです。

1) 老人保険の自己負担額を1回の診療ごとに500円とする(例えば月4回で2000円)。
2) 社会保険本人の自己負担率を1割から2割にあげる。
3) 薬剤費として、現行の医療費として含まれているものの他に外来は1日分1種類15円を徴収する。
(例:3種類の薬を14日分で15×3×14=630円)
4) 給料から天引される社会保険料を値上げする。

 医療を受けた者がそれに見合う自己負担をするのは当然と考えますが、この改革案が、一番公平な自己負担率を反映させているのかどうか、また自己負担率と月々納める保険料を増やすだけでなく、日本の増大する医療費を抑えて医療保険制度を破綻させず続けて行く方策は他にないものか、皆さんの意見はいかがでしょう。

2. 医薬分業

 診療を受けた病院や診療所で直接薬を貰うのでなく、患者さんが病院や診療所(以下まとめて病院と言うことにします)で院外処方箋をもらい、それを持って薬剤師さんのいる調剤薬局に行き薬を貰うしくみを医薬分業といい、厚生省はこの医薬分業をおし進めようとしています。理由は(1) 薬を多く出すことで病院に多くの薬価差益(保険で定められた薬価から薬の仕入れ値をひいた病院に入る利益)が入るしくみを無くし、病院が利益を追及して多くの薬を出しがちになるのを防ぐため(2) いくつかの病院や専門科にかかっている場合、重複した薬や、いっしょに飲んでは危険な薬の組み合わせをかかりつけの薬局でチェックできる、(3) 薬の作用、副作用の説明を薬剤師から受ける事ができる、ということのようです。
 そこで厚生省は、薬価を薬の仕入れ値に近づけて薬価差益を少なくすることと、病院が出す院外処方箋料の保険点数を上げる(院外処方料が病院に支払われる)ことで、医療機関が院内処方から院外処方箋に切り替えるよう誘導してきました。
患者さんにとっては、病院に払う院外処方箋料と薬局に払う調剤料の分、医療費が高くなります。

 この3点に対して反論します。

(1) に関して— 儲けのために不要な薬を多く出すなどは論外であり、そんな病院があれば、患者さん側でしっかり見極め見切りをつける方法を考えるべきであり、医薬分業にしても、今度は薬局の経営のためには多くの薬が出るほうがいいにきまっているのですから、薬が多いほど利益が増えるという構造には変わりがありません。

(2) に関して— かかりつけ薬局のチェック機能はどうでしょうか。現状は、病院のすぐ隣や向かいに、その病院と提携しその病院の医師が処方する薬を取りそろえた薬局(いわゆる門前薬局)がつくられるようになり、ある病院から出された処方箋の薬はその門前薬局から貰い、別の病院からの処方箋の薬はその門前薬局から貰うという形がほとんどですから、薬のチェックなどできようはずがありません。患者さんは医師の診察を受ける時、他の病院からもらっている薬のことも話し、いっしょに飲んでいいかどうか尋ねるべきですし、  医師のほうも当然患者さんがほかに受けている治療の内容もチェックすべきでしょう。

(3) に関して— 薬の作用や副作用は当然それを処方する医師が説明すべきではないでしょうか。
ひとつの薬にはいくつかの作用を持つものもあり、なぜその薬が処方されたかは、病名や症状の経過を診察していない院外の薬剤師さんにはわからないことです。薬のチェックには薬剤師さんの協力も必要ですが、医師と連絡をとりやすい院内の薬剤師さんのほうがいいのではないでしょうか。
 現実は、病院は医薬分業をすることで、院外処方箋料が入り、薬を管理する手間と人手を省き人費を考えれば、薬価差益がなくとも経営上は有利のようです。しかし、患者さんとっては、医療費が割高になったうえ、病院をでたあとまた薬局の玄関をくぐり、病院で診察費、薬局で薬代をと、お財布を2度取り出す手間が増えることになります。薬局は薬価差益が少なくなればどこから収入を得て経営が可能なのでしょうか。
ところが、ある薬局から多額のリベートを受け取っていた病院のニュースを耳にしますと、いったいどういうお金の流れなのかつかめません。欧米に比べ日本の薬の単価は高く、薬価差益を減らすことより薬の単価そのもの下げることが重要に思います。医薬分業は医療の受け手にとって本当に必要な制度なのでしょうか。

3. 介護保険

 公的介護保険制度が導入されようとしています。
高齢化社会で増加が見込まれる、老化が原因で介護を必要とする人が対象です。介護保険の適応となるサービスは、在宅で行なうものとして、老人訪問看護、ホームヘルパーの派遣、入浴サービスなど、施設で行なうものとして、療養型病床群に認定された病院での医療、老人保健施設や特別養護老人ホームへの入所、ショートステイ、デイサービスなどがあります。
 現在こうした費用は、医療保険から支払われており、悪化する医療保険の財政を救う狙いもあります。
介護保険が導入されれば老人介護関連の費用を介護保険に移し替えることができ、その分、医療保険の負担は減りますが、介護保険の保険料負担が増えるので、国民にとっては負担増になります。保険料は厚生省の推定で制度導入予定の2000年時点で一人当たり月額2500円程度。65才以上の高齢者は保険料を原則として年金から天引きされ、40才~65才の社会保険加入のサラリーマンの場合は2500円を労使折半、国民健康保険加入の自営業者などは半分を公費で負担するので、個人負担分は1250円程度を医療保険の保険料に上乗せして徴収。そして利用者はかかった費用の1割を自己負担します。
 さて現実にこの介護保険制度が導入された場合、まず介護保険の適応の認定を行なう人(認定機構)が必要ですし、どこでどういう内容の介護サービスをうけられるのかプランを立てマネージメントをする人が必要ですが、現実にはその役割を誰が担うのがふさわしのかでしょう(かかりつけ医、保健婦、ソーシャルワーカー?)。また、介護保 健に認定されたとしても、それにふさわしいい介護サービスを受けられるのでしょうか。施設は地域格差が大きく、ホームヘルパーの数も不足していますし、その質も一様ではありません。できるだけ要介護の状態にならないようリハビリが重要ですが、リハビリ施設も理学療法士も充分ではありません。。また、介護保険の適応がある人が、公的サービスを受けずに家族に介護してもらう場合、ドイツで行なわれているように現金給付も必要ではないだろうかなど。様々な問題を内包したまま、制度だけがひとり歩きをしないよう、受け手の側からの論議をもっと活発にする必要があるのではないでしょうか。

-検査値のみかた-

第3回 肝臓機能の指標

 GOT,GPT,.LDHは、肝炎、肝癌などで肝細胞の障害があると上昇し、総ビリルビン, ALP, γ-GTPは、胆嚢炎、胆管炎、胆石などで胆嚢や胆管の障害があると上昇します。
γ -GTPはアルコールの飲み過ぎによっても上昇します。
またコリンエステラーゼは肝臓の機能を反映し、低栄養状態で減少します。
しかし、LDHは肝臓以外の疾患、例えば心臟や肺の障害、悪性腫瘍でも高値となりますし、コリンエステラーゼは甲状腺機能や薬剤によっても影響を受けますので、検査値のみかたはいくつかの項目の組み合わせによって判断しなければなりません。

GOT 5~40 IU/l
GPT 5~45 IU/l
LDH 250~430 IU/l
総ビリルビン 0.2~1.1 mg/dl
ALP 85~255 IU/l
γ‐GTP M 60 IU/l 以下
F 30IU/I以下
コリンエステラーゼ 3000~7000 IU/l

 1つの項目が正常範囲より少しだけはずれても、すぐ肝臓が悪いのだと心配することはありませんが、毎日お酒をかかさない人でたえずγ -GTPだけが高値の状態を続けていれば、やがてアルコール性肝炎となってGOT, GPTが上昇し、肝硬変まで進んしまえばもう後戻りはできません。一週間に続けて二日はアルコールなしの日が必要です。
 自覚症状もなく、原因もはっきりしないのに慢性肝炎と診断されることが時々あります。
現在、肝炎を引き起こすウイルスで診断法が確立されているものに、A型、B型、C型肝炎ウイルスがありますが、まだ未知の原因も多くあります。
 慢性肝炎には、良質の栄養と休養が一番の薬です。GOT, GPTの軽度上昇のみで、自覚症状がない場合は、偏らない食事と睡眠と適度な運動をこころがけて、定期的な肝機能の検査を受けることだけ忘れなければ、あとは病気と考えず普通の生活を楽しんでください。


☆★ ナースより ★☆

~訪問看護のこと~
血圧測定、褥創処置、入浴介助など、在宅で必要な看護の要望に応えていきたいと思っています。医師による往診だけでなく、定期的な訪問看護を希望される方はご相談ください。


《田中桂子先生(国立がんセンター東病院の呼吸器内科)の診療日》
1月は25(土)、26(日)
2月は22(土)、23(日)
の予定です。

コメントは停止中です。