1996.5.30 「花の谷通信」発行にあたって 1996.5月

 この世の人の一生は皆限られた時間の中にあります。無限に思える不可思議さの宝庫である「人のからだ」も「こころ」も、この限られた時間の中でもっともっと大切にされる環境づくりが、一番大きな医療の役割であろうと思います。

 花の谷クリニックをオープンして一年が立ち、どこまでその役割の一端をになえたか、振り返ってみると、目先の仕事に追われ、至らないことばかりです。それでも多くの皆様のご援助にささえられ、前向きな気持ちで日々の診療を行なってくることができました。

 勤務医としての10年間と、クリニックを開設してのこの1年とでは、医療をとりまく環境について、私自身の目にみえてくるものに大きなちがいがありました。極端に言えば、医療は病院の中にあるものであった目からみるのと、医療は日々の生活の中にあると感じる視点からのちがいです。そしてまた、情報化社会といわれるものの、今はまさに情報の氾濫であって、ものごとを判断するための確かな、そして必要な医療情報がおどろくほど限られていることを感じています。そんななかで、受け手である人々の意見が反映されないまま、医薬分業、診療報酬包括化、介護保険などなど、様々な医療制度の改革が進んでいくことに危惧を覚えています。

 今後、『花の谷通信』が、少しでもよりよい医療環境づくりに役立つ情報を提供できるものになればと思っています。そして、皆様のご意見、ご叱咤をいただき、日常の診療では不足しがちなコミュニケーションを補う場としての役割をはたす通信となれば幸いです。


■患者学のすすめ
~よりよき医療をうけるために~

-はじめに-

 ドクター・ショッピングと言われるぐらい、あちこちの病院を渡り歩いている患者さんを見かけることがあります。同じような検査をいろいろ受け、同じような薬をもらい、自分の判断で適当に病名を、そして薬を取捨選択しているようです。
たいてい行く先々の医者に対しては、あちこちかかっていることを内緒にしていますので、不必要な検査を多く受け、いっしょに服用しては危険な薬どうしを服用してしまったりという弊害が生じます。医療保険費の無駄遣いでもあります。
また、第一段階の治療法で症状が改善しない場合、第二段階の治療法に移ろうと医療者側は考えているのに、その経過を受け取らないで、違う病院にかかってしまうと、そこでまた第一段階の治療法からやり直しと言うことも少なくありません。

 どうしてこうなってしまうのでしょう。いままでの経過、わからないこと、疑問に思っていることを率直に話し、質問して下さい。場合によっては、他の医師の判断、意見(セカンド・オピニオン)も必要ですが、その時には、これまでの経過、診断、検査、処方された薬についてのデーターをもっていくことが大切です。
そのためには詳細なデーター付き紹介状を書いてもらった方がよいのす。

 そうは言っても、薬は自分にあって効いているのだろうか、検査はどこまで必要か、手術は本当に必要か、わからないことだらけなのに、病院の雰囲気の中ではそう簡単に尋ねることができず、ましてや紹介状を書いてもらうことなど医者の機嫌を損ねるのではないか、などなど、現実は問題がいっぱいです。

 医療者も、患者さんも人間ですから、よりよい人間関係があるところからしか、よりよい医療環境は生まれません。
よりよき患者‐医療者間の人間関係成立の第一歩は、お互いの立場にたって、今ある医療の問題の共通認識をもつ努力をすることではないでしょうか。それが患者さんにとっては患者学であり、ひいては医療者にとって医療者学となる、このシリーズがその理解の一助となりますように。

-検査値のみかた-

第1回 血液スクリーニング検査の正常値の範囲

白血球数 3500~9300mm3
赤血球数 M430~570万/mm3
F380~510万/mm3
ヘモグロビン M14~18g/dl
F12~16g/dl
血小板数 12~35万/mm3
総蛋白 6.7~8.3g/dl
GOT 5~40IU/l
GPT 5~45IU/l
LDH 250~430IU/l
総ビリルビン 0.2~1.1mg/dl
ALP 85~255IU/l
γ-GTP M60IU/l以下
M30IU/l以下
コリンエステラーゼ 3000~7000IU/l
血清アミラーゼ 60~160U
CPK M40~220mg/dl
F40~160mg/dl
尿素窒素 8~20mg/dl
クレアチニン M0.8~1.3mg/dl
F0.6~1.1mg/dl
尿酸 M3.8~7.5mg/dl
F2.4~5.8mg/dl
総コレステロール 130~220mg/dl
HDLコレステロール M40~70mg/dl
F45~75mg/dl
中性脂肪 50~150mg/dl
空腹時血糖 70~110mg/dl
HBA1C 4.3~5.8%

 今回お示ししたのは、当院で行なっている血液スクリーニング検査の正常値です。正常値は検査施設により若干の違いがありますが、ご自身のデーターの参考にしてください。

 次回から個々の検査値について、正常値からはみだしていた場合、何をどこまで心配したらいいのか、どう気をつけたらいいのかをお話しします。

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