No.14 第14回日本緩和医療学会に参加して

 2009年6月19日と20日、大阪で第14回日本緩和医療学会総会が開催されました。
「緩和医療―原点から実践へー」のテーマで、5000名を越えるの方々の参加がありました。
 昨年に引き続き、当院からは院長の伊藤と看護師の木村が参加しました。
また、前日の18日に行われた教育セミナーにも参加し、緩和医療の知識のブラッシュアップを図ることができました。

伊藤の報告

 これまでの緩和医療学会ではメインテーマには据えられこなかった分野を含め、私が感心を持った4つのセッションの内容を報告させていただく。

 1日目のメインホールで行われたシンポジウム1「満足できる、質の高いがん性疼痛治療を考える」は、トップバッターの新聞記者・本田麻由美氏による、癌患者の立場からの発言で始まった。疼痛治療をはじめとする緩和医療の治療の初期段階からの実施が、がん対策推進基本計画の重点課題にも関わらず、患者の直面する現状は、分断された緩和ケアであり、”見放された感”は癒えないこと、このままでは、患者側が緩和ケアを見放すことに進むだろうとの厳しいご指摘を、しかりだなあという思いで聞いた。

 一般演題(口演)「地域医療」では、OPTIM(Outreach palliative care Trial of integrated regional model)という「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」に参加している4つの地域からの報告(浜松/森田達也、鶴岡/三原一郎、柏地域/林真子、長崎/白髭豊)を大変興味深く聞いた。会場からも活発な発言が相継いだ。4つの地域に即してそれぞれに取り組まれた地域連携のあり方は、上記シンポジウムで指摘された「分断された緩和ケア」の閉塞感を打開する糸口があるのではと感じた。わが地域にあった形で取り入れるにはどういう方法があるのか、と模索することを期待できる内容であった。

 2日目のシンポジウム7「患者の心に寄り添う?緩和医療におけるNBMの観点?」では、岸本寛史氏が「痛みをめぐるさまざま物語」を紹介してNBMの実践的側面から話をされ、藤井光恵氏が「聴き手の側の物語」についての認識の重要性を話された。その後、齋藤清二氏がまずEBMについての理解は、1)正統派の物語 2)ガイドライン派の物語 3)伝統科学派の物語 の3つの語られかたとして類別できると話された。詳細は省くが、このようにEBMを新しくとらえなおす事で、NBMについての理解を深めることができた。むしろ、医療はNBMを主軸としているとも言え、その中にEBMを取り込んで個別性のある医療を実現していく事が大事なのではと理解した。緩和医療のアプローチとNBMに漠然と大きな共通項があることを感じていたが、これまでになくすっきり頭に整理された思いがした。

 シンポジウム9「治療法のない難病患者のエンド・オブ・ライフ・ケア」でも、活発な議論が聞かれた。神経内科医として多くの神経難病の看取りをされてきた難波玲子医師から、実例紹介のなかで、神経難病患者の終末期ケアと延命処置選択に関わる多くの問題提起がなされた。日本ALS協会の川口有美子氏は、患者本人や家族、患者会の取り組みがあって、在宅でも呼吸器をつけて一人暮らしが可能になる障害者福祉政策が、東京都では築かれてきている経緯などを話された。

 本学会が、がん末期患者の緩和ケアについてばかりでなく、上記のような様々な疾患に関する問題、そして地域での暮らしを支えていくために解決しなければならない問題を考える場となってきたことは心強いことでもある。今後、今社会に大きな論議を読んでいる尊厳死の問題や、様々な疾患のエンド・オブ・ライフに関わる問題に、本学会から、きちんとメッセージが示されるようになってほしいと思う。これから自身の臨床の場でできる取り組みに、少し糸口がみえたと思うことのできた本学会参加は有意義であった。

※ 以上は【日本緩和医療学会ニューズレター44号】に、伊藤が学会印象記として投稿したものに少し加筆しました。

木村の報告

 今回学会で、特に印象に残った講演や学んだことを参加したプログラムごとにまとめて報告します。

① 「心理社会的サポートとは何か」
【シンポジウム】

■ コミュニケーションとチームによる取り組みから

~他職種連携・チーム医療・退院支援・合意形成~

〈いしかわ内科 松本武敏〉

チーム医療と言われるようになって久しい。他職種が有機的に作用しあうためには、患者との間で、またスタッフ同士のコミュニケーションが大切。カンファレンスなど話し合いの場では、プロセスや納得を重視し、意見と同時にその理由も聞くようにすると、深い理解が得られる。また、情緒的な質問ができる関係性・場をつくることで、より創造的な話し合いができる。それらを丁寧に積み重ねることで、思いが意向へ昇華し、患者がどのように生きたいかということをサポートできる。

■ 患者と家族の日常生活をケアする看護活動から

〈ピースハウス病院 二見典子〉

自らの対処行動のバリエーションを広げることが、自己効力感を高めたり維持することに役立つ。患者・家族の対処能力を見極め、対処したいという希望(自律性)を維持させつつ、他者の助けも許容することを示していく。

■ 暮らしと気持ちをささえる相談支援から

〈静岡県立静岡がんセンターMSW 福地智巳〉

解決の鍵は相談者自身の中にある。内(気付き)と外(社会的資源)へつなぐことが役割。主体性を重視するがゆえに心身の適切なアセスメントが必要となる。変化の可能性を信じながら、変化と限界の見極めをしっかり行なう。

② 「患者の心に寄り添う~緩和医療におけるNBMの観点」
【シンポジウム】

■ EBMとNBMはどのように語られているか

〈富山大学保健管理センター 齋藤清二〉

両者の関係について、サイエンスとアート、客観性重視と主観性重視、鳥の(俯瞰的)視点と虫(当事者的)視点、専門家の物語と非専門家の物語、などの理解がある。いずれも、二項対立的な語られ方の感がぬぐえない。NBMの中にEBMが要素の一つとして用いられる。内なる物語だけでなく、外からの「・・・」もとりこみ対話していくことにより信頼関係が増強されていく。 

■ 物語を聴くということ
~聴き手の側の物語~

〈こころのクリニック 自由が丘診療所 藤井光恵〉

人は病気になることにより、さまざまな喪失や断裂を体験する。このような体験につては、語ること自体が歪みや断裂をつなごうとする機能を持つと言える。混乱の最中にあって語りの体をなさないことも少なくない語りから、いかにしてどんな物語を読み取っていくか。聴き手の職種や役割に即した援助を、その千差万別の物語の中にどう位置づけていくか。

■ 痛みをめぐる語り

〈京都大学医学部附属病院 地域ネットワーク医療部 がんサポートチーム 岸本寛史〉

NBMを「病を人生という大きな物語の中で展開する一つの物語とみなし、患者を物語の語り手として尊重すると同時に、医学的治療も医療者側の物語と捉え、相対化して理解した上で、両者をすり合わせる中から新たな物語を紡いでいくことを治療と考える」ような医療と捉える。患者の「痛みの物語」は多種多用であり、標準的な治療によって解消されるほど単純なものではないと痛感する。痛みを物語として捉えることにより、一人ひとりの思いに即した疼痛コントロールを行なうことがやりやすくなると同時に、より広い視点から治療戦略を組み立てることが可能となる。また聞くことで治療の基礎となる信頼関係が強まるとその後の展開が築かれる。

③ 「緩和ケアとプライマリケアの接点」
【パネルディスカッション】

■ 初期臨床ケアと緩和ケア

〈佐久総合病院 総合診療科・地域ケア科・緩和ケアチーム 山本亮〉

■ 長崎での緩和ケアネットワーク構築の試み

〈医療法人白髭内科医院 白髭豊〉

■ 在宅を中心に据え地域の多施設他職種が支えるEnd of Life Care

〈あおぞら診療所 川越正平〉

病や老いを得てもなおその人が生きていく場所がある地域。そんな地域にはきっと涙以上にいい笑顔があるような気がする。そんなものを目指して私はこの花の谷クリニックに来たのだなぁと、あらためて様々なベクトルの持つ熱を実感した。一朝一夕には出来ないことだからこそ、丁寧に一つ一つ積み上げていくことの大切さを見せてもらった気がする。

④ 「終末期がん患者の症状・機能改善に挑む!」
【イブニングセミナー】
~腫瘍栄養学に基づく新しい栄養剤の開発とその効果~

〈藤田保健衛生大学医学部 外科・緩和医療学講座 東口高志〉

前の職場で栄養サポートチーム(NST)立上げに関わり、がん終末期患者の栄養管理に有用な対応ができなかった経験から、「症状・機能改善補助食品COBL)が終末期を初めとする担がん患者の症状回復や代謝に対し、有意に改善が見られたという内容に期待した。栄養管理によってサポートできる部分があるならば引き続きNSTの動向を見守って行きたい。

⑤ 「痛みの評価は本当に必要か?」
【口演】

~痛み評価の緩和と認知行動療法の強化によって疼痛が軽減した
3症例の脳内の現象のイメージングから~

〈東京女子医科大学 神経精神科 金井貴夫〉

痛み日誌をつけるという行為に違和感を持っていたため、口演を聞いた。痛みは緩和ケアの第1の標的となる症状だが、痛みを頻回に評価し患者に意識づけすることによって、痛みが強化されていく事例があることは経験的に知られている。3症例と少ないが、痛み日誌を止め、痛み評価の頻度・方法をチーム内で統一し、認知行動療法を展開したことにより、痛みが軽減・消失し、ADLの改善も見られた。この内容は一概に全ての患者に当てはまるとは言えないが、ケアする立場の接し方について考えさせられる内容だった。

終わりに

 主にシンポジウムなどを聴講したため、多くの参加があったポスター発表を見る時間が限られてしまった。抄録を読む限り内容の重複するポスター発表があることから、看護師として患者さんの近くにいて抱く思いや葛藤は、大きく違ったものではなく共通するものがあることをあらためて確認できた。看護師の多くの発表がポスターに集中していたことを思うと、時間配分を再考すべきだった。そのようなことを反省しつつも、緩和医療の第一線で奮闘している方達の発表内容は、具体的かつ示唆に富み、勉強になることが多かった。会場で感じた熱を自分の血肉とし、自分が今いるこの場所でスタッフの皆と試行錯誤しながら、自分自身の体温として自分なりに表現していけたらと思う。

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